再評価されるべきアマゾン自然・民族資料

農林水産行政に長く携わった経験から、また、自然豊かな鶴岡で生まれ育ち、今なお両親が農業・林業で生計を立てていることから、私は、「生物多様性」という概念は、行政を展開する上でも、経済事業を行う上でも、極めて大切なものだと考えている。

天から降り注いだ雨は、山林の養分とともに水田に受け止められ、庄内平野を縦断する川と水路がつなぎ、豊穣の海へ注がれる、水の循環。鶴岡は、山と海に囲まれ、それをつなぐ田園があるが故に、様々な生物が住み、遺伝子や生態系の多様性が保全されている。考えてみれば食文化創造都市の源泉とも言える在来作物の栽培も、遺伝資源と生物の多様性を体現した農業の一形態だ。農林漁業は、自然環境に働きかけ、その恵みをいただく、正に自然環境と一体の産業だ。また、2015年に大村智氏が土壌中の微生物が作る抗生物質の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞したことも記憶に新しい。生物多様性は、ビジネスや人類の未来にもつながっている。

さて、2014年3月、生物多様性、そして自然と人間との共生という重要なテーマを私たちに教えてくれた施設がここ鶴岡で閉館された。私が、鶴岡にUターンしたのが2014年4月、すれ違いで施設を利用することができなくなってしまったのは残念だ。1991年に旧朝日村の月山あさひ博物村にアマゾン自然館が、また1994年に旧鶴岡市の出羽庄内国際村にアマゾン民族館が開館。展示品には、ワシントン条約などにより、現在では収集できない絶滅の危機に瀕している動物の剥製、昆虫の標本や、何世代にも亘って継承されてきた貴重な民族資料が含まれていた。コレクションの所有者はアマゾン研究家の山口夫妻だ。

閉館の理由は行財政改革だという。来館者の減少で市財政の負担になっているということなのだろう。専門家が認める世界的なコレクションが宙に浮こうとしている。

私たちはどこから来て、どこへ向かうのだろうか?食文化も先端研究も、遺伝資源と生物多様性の重要性に思いが至らないようでは本物にはならない。「なぜ鶴岡でアマゾン?」そんな声もあったそうだ。むしろ鶴岡だからこそ、クラゲで世界一の水族館があるように、生き物、民族の暮らしを学べるオンリーワンの展示ができ、教育・文化にとどまらず、観光の目玉にもなるはずだ。「生物多様性」の重要性に思いを致す時、その価値は自ずとわかるはずだ。

守り育ててきた地域の資源、宝を活かす、行財政改革一辺倒で、この視点が失われるとすればその損失は計り知れない。