後援会長コラム『クラゲ館長釣れずれ日記2』

大鳥居の手前から右に折れ、笹川沿いに月山に向かうと古いコンクリートの「石倉の橋」に出る、渡れば映画村だがしかし我が家からわずか車で15分の近さだがいまだに中に入ったことがない。

今日は後援会の入会を頼みにここで働いている古い知人を思い出して訪ねてきたという次第だ。

ここがオープンしたころを知っているが、ひっきりなしに県外から来た車で狭い道路をすれ違うのが大変だった、今日はコロナウイルスの蔓延のせいだろうが、訪れる車も見えなく閑散として人気はなく、静まり返った一帯に景気のいい音楽だけ響いていた、、全くひどい世の中になったものだ。

まあ頼みはあっけないほど簡単に聞いてくれたが、ここに来ると胸に去来するのは55年前の4月、此のコンクリートの橋の下で人生「初めての釣り」をした時のことだ。

橋の下には堰堤がありコンクリートのたたきがあって、その先はちょっとした溜まりになっている、、、今日見るこの流れは55年前のあの時と何も変わっていない、時が止まったかのようだ。

昔から物忘れがひどく、何事も1夜空ければ記憶のかなたに消えてしまう自分だが、あの日のことは昨日のように鮮やかに甦ってくるから不思議なものだ、1間半の中通しにした庄内竿で釣りあげたイワナの、銀ピカに光った体や、、4月だというのに多く残る厚くかたい雪、針にかけたミミズの赤い色までまるで昨日のことのように思いだされる。

竿先にぶら下がった20cmの小さなイワナが、その後磯釣りへと発展してクロダイ釣りこそが人生ではないかと思いこんだり、年を経るに従い自作の良く曲がる庄内竿でメバルや海タナゴを釣る穏やかな楽しみに傾倒したり、男鹿半島にも青森県の深浦までも行ったし、新潟県の笹川流れは小さな岩一つまでもおぼえてしまった。

あの時初めて経験した細い竹の竿を通して伝わってくるイワナの感触が何とも心地よかった、我を忘れてしまってただただイワナが釣りたかった、夜明けにまだだいぶ間がある朝3時に家を出て、7時まで釣って僅か5~6匹ほどのイワナを手にして、家に戻って朝飯を食い水族館に出勤する、、、これを毎日続けた。

夜は早く寝てしまい朝目が覚めれば寝床にいない、あの時新婚2年目だったから家内には怒られた、しかしそれで止まるほどイワナ釣りの魅力はやわではない、82歳を目前にした「坐骨神経痛持ちの隠居」が、人生最後の楽しみと、、、、雨の降る日を待ちわびているのだから、石倉の橋は男を泣かせる思い出がある。

      2021,8,26  会長 村上龍男